インターネット検索最大手のGoogle(グーグル)は2004年8月、ナスダックへの新規株式公開(IPO)を予定している。本社のあるシリコンバレーでは、関心の中心は、上場初値がいくらになるかと、保有株を市場に放出する創業者や経営幹部、従業員、ベンチャーキャピタルなど、いわゆるインサイダーのキャピタルゲイン(株式譲渡益)だ。

募集価格は108~135ドルを予定

Google(グーグル)は2004年7月26日、米証券取引委員会(SEC)に発行株式数などを記載した登録届出書を提出した。登録届出書によると、IPOでは、2,463万6,659株を売り出し、このうち、1,049万4,524株は既存株主の保有株式が売却される。公開日は未定で、Google(グーグル)が提示した募集価格は1株あたり108~135ドル。実際の売出価格は、小口投資家にも平等な機会を与える狙いから、オークション形式で決める予定だ。通常、米国では主幹事会社などが株価を設定し、特定の顧客に株式を分配する形式をとる。Google(グーグル)のIPOでは、投資家がインターネットを通じて各々入札を行い、最も高い金額を提示した者が落札する。

インサイダーによる保有株式の売却

このような情報開示の中、シリコンバレーで最も話題となっているのは、インサイダーによる保有株式の売却だ。通常、インサイダーの保有株式の売却については、数ヵ月間のロックアップ(売却禁止)期間が設けられることが多い。これは、公開直後にインサイダーが集中的に大量の株式を売却することによる相場のかく乱を防ぐためだ。また、インサイダーによる保有株式売却は、会社の将来性に対する投資家の信任低下を招く恐れもある。

IPOによる従業員の金銭的恩恵

Google(グーグル)の場合、インサイダーが保有株式を売却して、いくら蓄財できるかといったことが関心の的になっている。1990年代後半から2000年にかけてのドットコムバブルの真っ盛りには、IPOやM&Aで誰がいくら儲けたかという報道が盛んに流れていた。「サンノゼ・マーキュリー」紙は、「百万長者になるGoogle(グーグル)従業員」と題し、IPOによる従業員の金銭的恩恵について論じている。

段階的に株式の売却を認める

共同創立者のラリー・ページ氏とセルゲイ・ブリン(サージー・ブリン)氏はそれぞれ保有株式の2.5%にあたる約96万株ずつを売却する。エリック・シュミット最高経営責任者(CEO)のなど経営幹部は5%、ベンチャー・キャピタリストなどの投資家は10%の保有株式を売却する。従業員については、ロックアップ期間を設けず、IPO後、段階的に株式の売却を認めることにしている。

共同創設者のキャピタルゲインは128億円

誰がどのくらい儲けを得ることができるか。「サンノゼ・マーキュリー」紙によると、価格の平均を母数(1株あたり121.50ドル)とすると、共同創立者のページ氏とブリン氏のキャピタルゲインは、それぞれ1億1,700万ドル、日本円にして約128億7,000万円が入る(税引き前)。Google(グーグル)に投資をしたシリコンバレーの名門ベンチャーキャピタルファームであるセコイア・キャピタルは2億9,000万ドル、同じくクライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズは2億5,600万ドル。また、パートナー企業であるアメリカ・オンライン社は9,000万ドル、ヤフー社は6,700万ドル、Google(グーグル)テクノロジーのシーズ開発場所であるスタンフォード大学は2,200万ドルとなる。

米国のIPO市場歴代9位

なお、仮にGoogle(グーグル)の予定している募集価格で資金調達が達成できれば、米国のIPO市場歴代9位となり、シリコンバレー企業のIPOでは過去最高となる。

Google(グーグル)のリスク要因とは

登録届出書によると、Google(グーグル)自身が考えるGoogle(グーグル)への投資リスクは、インターネット検索サービスおよびネット広告を手掛けるマイクロソフトとヤフーとの競合である。マイクロソフトは現在、新しい検索技術の開発にマイクロソフトの大量のリソースや資金を投入していることもあり、手強いライバルになると見ている。ヤフーはオーバーターン・サービス社の買収により、Google(グーグル)との競合商品となるネット広告ソリューションを持つようになった。しかも、マイクロソフト、ヤフー両社とも、Google(グーグル)に比べて従業員が多く、市場での経験があり、顧客と長年の関係を築いているという。

既存のユーザーは検索利用をさほど増やさない

一方、Google(グーグル)のリスク要因について、「ウォールストリート・ジャーナル」紙は、大方のアナリストらは、短期的には高成長が続くと予想しているが、検索およびネット広告事業の成長は鈍化し始めていると指摘する。理由は、初めてのインターネット利用者は今後減り、既存のユーザーは検索利用をさほど増やさないためとしている。

コラムニスト、ダン・ギルマー氏

「サンノゼ・マーキュリー」紙のコラムニスト、ダン・ギルマー氏は、「一部のサークルで、Google(グーグル)の基本的な信用性についての疑問が沸きあがっている。こうした疑問は、一部顧客の解約やGoogle(グーグル)の閉鎖性によるところが大きい」と見ている。また、ダン・ギルマー氏は、「募集価格は複数のアナリストらによって、ヤフーの現在の株価を参考に設定しているようだが、1990年代のバブル時のような楽観的な値付け方法を回想させる」と警鐘を鳴らす。

投資家への説明が必要

Google(グーグル)の公開価格が明らかになるまでは、さまざまな憶測や各種の煽り記事が出て来そうだ。いずれにしても、IPOを契機に、これまでGoogle(グーグル)が未公開企業を理由に明確にしてこなかった今後の成長戦略について、投資家への説明が必要になってくるだろう。